落ち葉の中のお姫様(投稿者:黒谷零次さん)


秋晴れの空の下、僕は風に乗って聞こえてくる静かなピアノの調べに耳を傾けていました。

「ふふ、可憐はまたピアノの練習ですか」

絵筆を置いて描きかけの絵を見る・・・締め切りまで一週間も無いのですがこのままでは終わりそうも無いですね・・・

       「落葉の中のお姫様」


「お兄ちゃん、調子はどうですか?」

どうやらピアノの練習が終わったらしい可憐がそこにいました。

「みてのとおりですよ、このままでは完成しないかもしれませんね」
「でも、お兄ちゃんはのんびりしているように見えるんですけど・・・」

可憐の言うとおり僕はのんびりと絵の構想を練っています。

「焦ってもいいものは出来ません、のんびりいきますよ」
「そうだったの・・・可憐にも何か出来る事はありませんか?」

僕はしばし考え・・・可憐に「紅茶を持ってきてくれますか?」と頼んだ。

「はい、今もってきますね」

そういって家の中にかけていった可憐の後ろ姿を追いかけながら僕はもう一度絵を見ました。
―――――正直、このままでは終わらないでしょう。


「おいしい紅茶ですね。ありがとう、可憐」
「そんな・・・気にしないでください」

可憐も笑顔で紅茶に口をつける。そんな可憐の動作一つ一つがまるで一つの絵のよう僕の頭の中でつながっていく。

「ちょっとお願いがあるのですがきいてくれますか?可憐」
「なんですか?」

ちょっと緊張した面持ちで可憐は僕の顔を覗き込んできました。

「僕の絵のモデルになってくれませんか?」

僕の言葉を聞いた可憐は少し間の抜けた顔になっていました。









「お兄ちゃん、こんな感じでいいですか?」

今可憐にはもみじの木の下で紅茶を飲む格好をしてもらっています。

「いいですよ、すこしそのままでいてもらえますか?」
「はい」

僕は白い画用紙と可憐の立っている場所を見比べて構図を決めると絵筆を動かしていった。
白い用紙の上にだんだんと命が吹き込まれていく、線は木々を、落葉を、そして可憐を形作っていく。

「さあ、下書きは終わりました。もういいですよ、可憐」

僕が言うと可憐は背伸びをして机にクタ〜っとなってしまいました。

「お疲れ様でした、つまらなかったでしょう。もう家に入っていても良いですよ。」
「ううん、可憐はお兄ちゃんの絵が完成するまでここにいます。」
「わかりました」

まあ、別にいてもらう必要は無いのですが、私はあえて言いませんでした。
流石に「可憐の姿に見とれていた」なんて恥ずかしくて言えませんから。
と、そのとき少し強い風が吹きました。

「うわぁ、綺麗・・・」

可憐の姿は突風によってたくさん落ちてきた落葉に、嵐にでも飲み込まれるように包まれていきました。

「可憐、頭に落ち葉が残ってますよ」

僕はそう言って可憐の頭から落ち葉を取ってあげました。

「ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして、落葉の冠のお姫様」

口元に笑みを浮かべながら僕は可憐の体を抱えあげました、俗にいう『お姫様抱っこ』というやつです。

「きゃっ・・・恥ずかしい」
「お姫様には少し寒くなってきましたからね、部屋へ戻りましょう」

僕と可憐はその格好のまま笑顔で見詰め合っていました。





〜END〜