シャボン玉(投稿者:黒谷零次さん)
シャボン玉

「おにいたま〜これなぁに?」

なにやら押入れをガサゴソとやっていた雛子が持ってきたものはシャボン玉の液の入った容器だった。

「それはシャボン玉を作るやつだよ、かしてごらん」

俺は窓を開けて雛子の手からそれを受け取ると、液をつけ静かに息を吐き出した。
雛子と俺の目の前でシャボン玉は徐々に大きくなり、そして、ストローから離れ大空へと浮かんでいった。

「おにいたま、すっご〜い」

雛子は目をきらきらさせてシャボン玉に見入っていた。

「じゃあ、もっとやってみようかな」

今度は少しずつ息を吹き小さいシャボン玉をたくさん作ってみせた。

「おにいたま、ヒナにもやらせて〜」
「いいよ、ほら」

俺は雛子にストローを渡した。

「じゃあ、やってみなよ」
「うん、くししし・・・エイ!」

だが雛子のくわえたストローからはシャボン玉はできなかった。

「ありり?シャボン玉できないよ?」
「息を吹くのが強すぎるんだよ、もっとゆっくり吹いてごらん」

俺が言うともう一度雛子は息を吐き出した。
シャボン玉はみるみるうちに大きくなり、やがてストローから離れ大空へと浮かんでいった。

「おにいたま、ヒナのシャボン玉プカプカ〜ってとんでるよ」
「上手にできたね、すごいな雛子は」

俺は雛子の頭をなでながら言った。

「くししし、おにいたまにほめられて頭もナデナデしてもらっちゃた」

雛子は嬉しそうにもういちどシャボン玉を作った。
それから雛子は何度もシャボン玉を作って浮かべていた。

「ふわふわお空へ〜♪おにいたまとヒナのシャボン玉♪ヒナはシャボン玉だーいすきー♪」

嬉しいのか雛子は自分で歌を作って歌いだした。

「なあ、雛子は本当のシャボン玉の歌を知ってるかい?」
「うん、しってるよ。」
「じゃあ、いっしょに歌おうか」
「うん!」


















「「シャボン玉(だま)飛(と)んだ
屋根(やね)まで飛んだ
屋根まで飛んで こわれて消(き)えた

シャボン玉消えた
飛ばずに消えた
生(うま)れてすぐに こわれて消えた
 
風(かぜ) 風吹(ふ)くな シャボン玉飛ばそ」」
















歌い終わった雛子はまたシャボン玉を飛ばし始めた。
雛子はとても楽しそうだが、ぎゃくに俺の心はもの悲しいものに包まれた。


〜それは雛子がいつかは俺の元から離れてしまうという不安だろうか〜


〜それとも、幼い妹に対して抱いてしまった恋心への葛藤だろうか〜


「なあ、雛子」
「なぁに?おにいたま?」

振り向いたその小さな体を俺は抱きしめた。

「どうしたの?どこかイタイイタイなの?」
「・・・俺は何があっても雛子を守るからな、いつまでも」

俺がそう言うと、雛子も両手で俺の体を抱きしめてきた。

「ヒナもず〜っとおにいたまと一緒にいるよ、だってヒナおにいたまの事ダイダイダ〜イ好きだもん!」

そういった雛子の顔はまるでシャボン玉のように輝いていた。
まるでシャボン玉のようにすぐ消えてしまいそうな雛子の体を俺はやさしく抱きしめた。

「すぅ〜・・・すぅ〜・・・」

それから10分も経った頃だろうか雛子は静かな寝息を立てていた。
はしゃいでいたので疲れたのだろう。

「やれやれ、寝ちゃったか」

俺は一人で呟くと雛子の体を持ち上げてベットへと運んだ。

「さっきはいえなかったけど俺も雛子のことは大好きだよ、これはその印」

俺は柔らかな雛子の唇にやさしく口付けをした。

(いつか、こんどは雛子が大きくなったとき、雛子からしてくれると嬉しいな)

俺はそんなことを思いつつ静かにドアを閉めた。

END