この思い出をいつまでも(投稿者:黒谷零次さん)

「おはようですの、にいさま」

食堂に入った俺に挨拶をしてきたのは俺の大切でもあり、叶わぬ思いを抱いている少女―――白雪だった。

「おはよう、朝からありがとな」

俺はそう言って白雪の頭をなでた。

「別にいいですの、だって姫はにいさまのお料理番ですもの、ムフン♪」

白雪は少し顔を赤くして俺の顔を見上げてきた。

「照れるな・・・」

見上げてくる白雪の瞳から逃げるように俺は顔をそむけた。まるで俺の心を見透かされるようで怖かったのだろうか。

「キャッ♪・・・にいさまったら・・・」

白雪は俺から離れると俺の向かいに座った。

「「いただきます」」

きちんと挨拶をしてから俺たちは朝食を食べ始めた

(いつか・・・白雪のご飯を食べる事も無くなるかもしれないんだな)
「・・・さま」
(いつも兄離れしろと言ってるくせに妹離れができていないのは俺の方じゃないか)
「・・・いさま」
(もしそうなったら・・・俺は・・・)
「にいさま!」

強く呼ばれてやっと俺は白雪が自分を呼んでいることに気づいた。

「どうしたんですの?さっきからボーっとして・・・」
「なんでもないよ、ちょっと考え事をしていただけさ」
「変なにいさま・・・」

二人の間に気まずさという空気が流れる。だが、その中で白雪と話をしなくていいという安堵にもにた感触が俺の中にはあった。話をしていると自分の思いをぶつけてしまいそうだったから。

「にいさまは今日何か用事がありますの?」

そんな空気を取り払うように白雪が話し掛けてきた。

「ちょっと用事があってな、今から出かけてくる」

本当はたいした用事なんてない、ただ今は白雪から離れていたかったのだ。

「そうですの・・・」

俺の返事を聞いて白雪は悲しそうな顔をした。
その顔を見て俺の心はキリキリと痛んだ・・・





「で・・・俺のところに来たわけか」

今俺は友人の裕也の家に来ている。無論用事があったわけではない。

「しょうがないだろ、俺も今いっぱいいっぱいなんだからよ・・・」

自分でも呆れるほど悲痛な声になっているのが分かる。

「将俊おにいたま、だいじょうぶ?」

ふと気づくと俺の横には裕也の妹、雛子ちゃんが立っていた。

「こんにちは、だいじょうぶだよ。だから気にしないでね」
「うん、わかった」

それだけ言うと雛子ちゃんは部屋から出て行った。

「なあ、裕也・・・」
「なんだ?」
「いや・・・その・・・」
「だから、なんだよ」

少しキレ始めた裕也に向かって俺は意を決して言った。

「お前は一人の女性として雛子ちゃんの事・・・好きか?」
「ああ」

あまりにも早く簡潔な返答に俺は閉口してしまった。

「それがどうかしたか?」
「どうかしたのかもなにも、雛子ちゃんはお前の妹だろうが!」

とりあえず自分の思いは棚に上げて俺は叫んだ。

「ああ、確かに雛子は俺の妹だ・・・だが相思相愛なら、なにも文句を言われる道理はないだろう」
「・・・」
「ただ、世界中を敵に回してでも守るぐらいの勇気はいるがな」

そう言った裕也の目は語っていた、「おまえもそうなのだろう」と

「ありがとな、お前のおかげでなんだか楽になったよ」
「俺は特に何もした覚えは無いがな」

裕也は苦笑して俺の目を見た。

「茨の道だぞ、それでもいいんだな?」
「覚悟は決めたさ」
「じゃあ、いってこい!」
「おう!」

俺は裕也の手のひらに拳を打ち付けると自分の家へと走った。



「あの馬鹿・・・今日が白雪ちゃんの誕生日だってこと忘れてるだろう・・・」







俺はやっと家へと帰りついた。時計を見るともう9時を回っていた。

「ただいま〜」

そうして玄関に入って俺は違和感に気づいた、玄関はおろか家のどこも電気がついてないのだ。
俺は慌てて白雪の靴を確かめる・・・やはり靴は無い。
気づいたときには俺はもう一度外を走っていた。

「はあはあ・・・いったいどこにいるんだ?」

かれこれ一時間は探し回った、だがどこにも白雪の姿は無い、電話にも出なかった。

「いったい、どうなって・・・あ・・・」

くたくたになった俺の目に映ったのは公園のブランコに座っている白雪の姿だった。

「白雪!」

だが顔をあげた白雪の瞳を満たしていたのは・・・・・・・・・大粒の涙だった。

「いったい、どうしたんだ・・・」
「にいさまのバカ!」

白雪は悲痛な面持ちで俺の顔を見上げてきた。

「せっかく姫の誕生日だから・・・にいさまのために美味しい料理を作って待っていたんですのよ・・・なのに・・・にいさまは家に帰ってこなくて姫は・・・姫は・・・」

白雪の言葉は最後まで続かなかった、俺が白雪の体を強く抱きしめたからだ

「ごめんな、白雪・・・」

俺は謝った。誕生日を忘れてしまった事、白雪を悲しませた事、そしていままで白雪を避けていた事を。

「俺は・・・白雪の事が好きだ、妹としてではなく・・・一人の女性として・・・」
「姫もにいさまのことが大好きですの・・・」
「白雪・・・」
「にいさま・・・」

そして見詰め合った後・・・じょじょに俺達の唇が近づいていく・・・

「ゴホン、ゴホン・・・いいかげんに気づいてくれないかな・・・」
「「!!!」」

俺と白雪は慌てて離れた。あたりを見渡すとそこには裕也と、雛子ちゃん・・・それに真吾と可憐ちゃんが立っていた。

「な・・・なんでお前らがここに!?」
「お前のあの調子じゃ、白雪ちゃんの誕生日の事忘れてると思ってな、ホレ」

掲げた裕也の左手にはケーキが握られていた。

「で、僕も裕也君に呼ばれて君達の家に行ったんだけど・・・誰もいなくてね」
「可憐達、さがしてたんです。」
「ヒナも頑張って探したよ!」

俺は親友達の心遣いを嬉しく思い・・・そして、先ほどから持っていた疑問をぶつけてみた。

「ちなみに、いつから見てた?」
「どこかのバカップルがキスしようとするところから」・・・意地の悪い笑みを浮かべて裕也
「僕も・・・かな」・・・いつものように気弱な笑顔を浮かべて真吾
「可憐は何も見ていません、キャッ!」・・・顔を赤くして可憐ちゃん
「ありり?将俊おにいたまが白雪ちゃんと抱き合っているところじゃなかったけ?」・・・元気いっぱい雛子ちゃん
「ゆ・う・や〜!」

俺は般若の如き形相で元凶の裕也を睨み付けた。

「さあ、白雪ちゃん家に帰ってこのケーキ一緒に食べようか」

だが裕也は俺を無視して歩き出した。

「てめえ!待ちやがれ!」

俺は裕也を追いかけて走った。

















「今日は楽しかったな」

俺は同じベットで横になっている白雪に言った。

「そうですの・・・でももうあんな思いは嫌ですの」

白雪はいたずらを思いついたような笑みを浮かべ・・・俺に抱きついてきた。

「なあ・・・さっきの続き・・・していいかな」
「・・・いいですの」

そして俺達の唇は重なった。もう二度と離れないように、強く・・・長く・・・










(いつまでもこの笑顔を守っていこう・・・茨の道でも、針の山でも・・・)


END